[レビュー]日本の右翼の「歴史挑発」を煽った「サンフランシスコ体制」(ハンギョレ)
サンフランシスコ講和条約は、最終締結まで6年という長い時間がかかった条約だ。著者のキム・ヨンホ氏は、同条約が締結されるまで日本に対する米国の態度が3段階を経て変わったと述べる。第1段階(1945~1947)では戦犯国である日本を解体することに重点を置いたが、第2段階(1948~1949)で米ソ冷戦体制に入ると、ソ連を排除し日本と単独講和を結ぶ方向に転じた。続いて第3段階(1950~1951)では中国本土に社会主義体制が樹立され、朝鮮戦争が勃発すると、日本を冷戦と反共の最前線に立つパートナーにした。日本は最大戦犯国の地位から脱し、米国の東アジア戦略の最大同盟国となった。こうして戦争犯罪者の大多数が免罪符を受け、戦後の日本再建の主役となった。
サンフランシスコ条約締結の過程で浮かび上がった問題はこれだけではない。注目すべきは、日本の侵略と支配で最も大きな被害を受けた韓国と中国が、同条約を締結する当事者として参加できなかったという事実だ。韓国は南北が分断されており、韓国が参加する場合は北朝鮮も参加しうるという理由で排除され、台湾と本土に分かれた中国も、代表性に問題があるという理由で除外された。日本の侵略による一番の被害国が、条約の主役になれなかったのだ。にもかかわらず、このように成立したサンフランシスコ体制は、東アジア秩序を規律する枠組みとなり、韓国を束縛した。例えば、1965年の韓日国交正常化の際の「請求権協定」は、サンフランシスコ条約に基づいて結ばれた。その後、日本は請求権協定の文言を口実に、日本による植民地時代の韓国人被害者に対する賠償責任がないと主張している。韓国が参加もできなかった条約が、韓国の足を引っ張っているかたちだ。
(中略)
こうして成立したサンフランシスコ体制は、戦後数十年間、東アジアを規定する国際関係の枠組みとなった。しかし、韓国をはじめ東アジア諸国の民主化と人権意識の伸張は、同体制に大きな打撃を与えた。日本軍「慰安婦」被害者や強制徴用被害者の証言と訴訟が相次いだ。サンフランシスコ体制が封鎖していた歴史問題が前面に登場したことで、この体制の内的矛盾が深まり、韓日関係は最悪の水準に後退した。サンフランシスコ体制を越えて東アジアに新たな共同秩序を作らなければならない理由が、よりいっそう切実になったのだ。しかし一方で、揺らいでいるサンフランシスコ体制をより大きな次元で復元しようとする動きも加速している。米国と日本がオーストラリア、インドを引き入れて作った安保協議体クアッド(Quad)がそのような動きを示している。中国包囲を目指すこのクアッド体制について、イ・ジョンウォン教授は「サンフランシスコ体制2.0」と呼ぶ。サンフランシスコ体制に代わるさらに拡張されたバージョンだということだ。
注目すべきなのは、このクアッド体制を主導しているのが日本だということだ。米国の保護のもとで成長した日本の極右勢力は、「中国包囲」の名分で東アジアを対決に追い込み、過去の栄光を取り戻す道を開こうとしている。そのため、いま東アジアはサンフランシスコ体制を越えて前に進むか、それとも過去の冷戦秩序に逆行するかの岐路に立たされている。日本の極右勢力と米国の覇権勢力が率いるクアッド体制が全面化した場合、南北の和解と平和の道はさらに遠ざかる。筆者らは、東アジアの市民・人民が力を合わせてこの時代の逆行の流れを阻止し、「東アジア共同体」に向けて進まなければならないと強調する。
(引用ここまで)
サンフランシスコ平和条約について書かれた論文集のブックレビュー……という体裁での、韓国人左派が抱く「サンフランシスコ平和条約」、そして「日韓基本条約」および「クアッド」に抱く思いを書いた記事。
ちなみにこの論文集には和田春樹とアレクシス・ダデンが参加しているので中味はお察しください。
これね、面白いです。
個人的にはこれまでのハンギョレの記事の中でも相当に面白いと感じます。
韓国がサンフランシスコ平和条約に参加できなかったことについて、「韓国は南北が分断されており、韓国が参加する場合は北朝鮮も参加しうるという理由で排除」されたなんてところはもう震えが来るくらいに面白いですね。
韓国は参戦国ではないから排除された、というか「日本だっただろうがお前らはよ」という当時の連合国の立場を捏造している。
これは「韓国の正統政権は3・1運動にはじまる大韓民国臨時政府であり、臨時政府は日本に宣戦布告した」という意識がベースにあるからですね。
ムン・ジェイン大統領がくどいくらいに「
韓国の建国は1919年であり、1948年ではない」と言い続けてきたことに軌を同じくしています。
1948年の建国は保守派によって行われ、その後軍政によって引き継がれたので本当の建国ではない、というのが彼らの主張です。
それにそぐわない歴史的事実は抹消されるのですよ。
現在の日韓関係の断絶もサンフランシスコ平和条約で厳しく日本を罰しなかったことがベースになっており、さらには「サンフランシスコ平和条約を想起し」として結ばれた日韓基本条約(日韓請求権協定)で徴用工問題や慰安婦問題と言った人権問題が蔑ろにされている、なんてところももうホントに面白い。
韓国人は度々、日韓基本条約について
「韓国が力のない時に結ばれたもので不当なものだ」「こんなものは破棄して現在の韓国にふさわしい条約にすべきだ」と述べています。
なにしろ「請求権は完全かつ最終的に解決された」と日韓請求権協定に書かれていることが気に入らない。日本の戦前の非道を(韓国が力をつけた)いまこそ糾弾したいのにできない、という構図が気に入らないのですよ。
そんな条約は正統的なものではない、というか民主的に認められたものではないから無効だ、くらいのことまで言っていますけどね。
ま、日本にしてみたらそんなこた知ったこっちゃないので条約守れしか言えることはないのですが。
そして、さらに日米豪印によって結成されているクアッドを日本が主導していることも気に入らない。
よりによって戦犯国である日本が自由主義陣営の雄としてアメリカ、オーストラリア、インドを率いて対中包囲網を主導するとはなんということだ、という意識です。
当時、外交部長官(外相に相当)だったカン・ギョンファ氏が「
クアッドはいいアイディアだとは思えない」と述べたり、米韓首脳会談後の共同声明で
「両首脳は米韓同盟はインド・太平洋地域の安保、安定のための核心軸であることを強調した」とする部分を翌日になって否定したりしてきました。
「戦犯国であるはずの日本」がアジアで対中包囲網を主導するなんてことがあってはならないし、イギリス・フランスまでそれに寄り添うなんてことは間違っているというのが彼らの認識なのです。
で、最後の「クアッドではない東アジア共同体を形成しなければならない」というところにつながるわけですが。
韓国人の中ではそれを主導するのが韓国になっているのでしょうね。例のマンガの「韓国!」「他国に迷惑をかけたことない紳士の国!」「礼儀正しく輝く文化を持った国!」「経済的底力と経済成長のモデルになった国!」ってアレ。
まあ、東アジア共同体でもなんでもいいんで提唱してみたらいいんじゃないでしょうかね。
ご自由にどうぞ。
いや、しかしいい記事だわ、これ。
Twitterで更新情報をお伝えしています。フォローよろしくお願いします。→