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カテゴリ:労働争議の記事一覧

韓国で続く医療ストライキ、「スーパーエリート」対「一般世論」の対決になりつつある模様

[コラム]ソウル大学医学部のキム・ユン教授はなぜ医師たちの「公敵」になったのか(ハンギョレ)
 韓国の医大生はどうか。3年前に与党「国民の力」のキム・ビョンウク議員室が入手した韓国奨学財団資料によると、2020年の全国の医学部の新入生のうち、所得1~8区間の該当者は19.4%だった。所得9・10区間が80%を超えているということだ。一方、米国のある研究によれば、米国の医大生の50%程度が所得上位20%だった。

 裕福だからといって医師としての使命感に違いはないだろう。私教育をはじめとする投資がいくら多かったとしても、患者よりお金を優先する医師が多いとも思わない。

 しかし、医学部増員が推進されるたびに極端に噴出する医師たちの反発が、金儲けとは無関係だと考える国民はほとんどいない。少なくとも、医師集団が今回、保険料非給付項目の抱き合わせを防ぐための混合診療の禁止をはじめとする必須医療パッケージの白紙化まで要求しなかったならば、一定の理解を得られたかもしれない。給与の安い専攻医の長時間労働ばかりに依存する病院、そのような犠牲を当然視する政府と社会、経済協力開発機構(OECD)平均の2.6倍である1人あたりの外来診療、必須科が忌避科になって美容・整形科だけが盛んになる構造が、本当の問題だと考えてはいるのか。そうであるとすれば、政府に物言いをするだけでなく、必須医療パッケージを支える財政計画と具体的な目標を約束するよう圧力をかけるのが常識だ。「2000人」を固守し強硬な態度を貫く政府の対応と、当面は医学部志望の偏りがもっと激しくなるであろうことへの懸念は強いが、既得権をただの一つも手放すまいとする医師集団の「素顔」を目の当たりにした世論は、簡単には医師たちの肩を持つようにはならないだろう。 (中略)

 ソウル大学医学部のキム・ユン教授(医療管理学)は、医師たちの「収入」問題を赤裸々に指摘してきた唯一の医療界の人物だ。先月の文化放送(MBC)の番組「100分討論」では、医師の供給不足を説明し、2019年に2億ウォン(約2300万円)ほどだった総合病院勤務の年収が最近は3億~4億ウォン(約3400万~4600万円)に増えたと述べ、医師たちの反発を買った。討論直後に大韓医師協会(医協)は「教授、教え子がなぜ行動するかをご存知ですか」と題する新聞広告を出し、キム教授を事実上公開の場で攻撃した。昨年10月には、キム教授は先進国における様々な社会的・経済的なバックグランドを持つ医師を選抜する努力に言及したニュース1のコラムで「成績上位1%だけが実力のある医師になれるという主張は、(医師たちが自分の)収入を守るためのフェイクニュース」だと書き、医療界をざわつかせた。医協は懲戒方針を明らかにし、大韓開業医師協議会は、キム教授が参加するすべての会議に参加しないという声明を出した。 (中略)

 最近、医学部増員に賛成したり専攻医の病院離脱に反対する医師たちの声が出始めてきたが、ほとんどが匿名だ。「裏切者」のレッテルを貼る医師たちの集団文化がそれだけ強固かつ暴力的であるためだろう。SNSのコメント欄などでキム教授に向けられる攻撃と非難は日常になった。「同期や先輩後輩とあからさまに戦うのは避けようとしてきた。遠まわしに言ったり、留保的な条項を付けたりしていた。だが、医師集団に所属しているという考えから抜け出そうと決心したので、本当に自由になった」
(引用ここまで)


 ちょっと前に「労働争議であればなんでも擁護してきた左派紙ハンギョレすらも、現在の医療ストライキについては少なくとも支持していない」との話をしました。
 これがどれだけの話かというのはなかなかに語りにくい。
 ハンギョレの基本方針は暴力デモであってですら擁護。
 「造反有理、革命無罪」を地で行くような論陣を張っているのがハンギョレであり、韓国の左派の基本方針なのですね。

 そんな彼らですらも医療ストライキに対しては中立的な立場を表明してしまう。
 政府方針に対してちょっとした文句を言うものの、それ以上のことは述べない。
 なんだったら「専攻医(日本での研修医に相当)は辞表を出したなら、兵役にすぐにでも行け」くらいの記事を書いてしまう。

韓国左派紙すらも「医療ストライキ」に対して冷ややかな視線、「医者を辞職したならすぐにでも兵役に行け」とまでいわれてしまう(楽韓Web過去エントリ)

 それくらい韓国全体からは医療ストライキは冷ややかな目で見られていると言えると思います。


 んで、今回のハンギョレのコラムは「医療関係者は象牙の塔に引きこもっていないか」とするもの。
 ソウル大学医学部教授が内部告発的に医療界の歪みを語っていることに対して、医療関係者は「あいつハブしようぜ」とか「この報告書を書いたのは誰だ!」ってやっているっていう。

 昨日も書きましたが、韓国のエリートは90%以上が医学部に進みます。
 ソウル大学医学部を頂点として、まず医学部・医大の定員が埋まり、そこからソウル大学○○学部が埋まっていくというイメージ。
 スーパーエリートだけがいる、いわば「超象牙の塔」が形成されているのです。
 そこに韓国のウリ(我々の意。ここでは強烈な仲間意識)文化が加わってえらいことになっている。
 出身世帯も所得上位20%に属するところが8割超。

 自分たちの既得権を侵害するようなものは排除されて当然、とのスーパーエリート意識に溢れているし、ウリ文化の中でそうした意識は敬意をもって対応されて当然との状況になっているのですね。
 彼らは韓国社会において圧倒的強者、圧倒的「甲」なのです。
 なので「患者を放置してストライキに入っても問題ない」って話になっている。
 ハンギョレであってですら「それはちょっと……」ってなっているわけです。

 なんなら支持率が低下していたユン・ソンニョル政権への支持が高まる状況にすらなっている始末。
 世論は「大学定員を増やし、医療ストライキに立ち向かうユン政権」を支持しているのですね。

尹大統領の支持率39% 5ポイント上昇=与党39%・最大野党32%(聯合ニュース)

 最後の最後まで世間との乖離に気がつくことなく終わるのでしょう。

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韓国の医療スト、研修医だけでなく教授クラスの専門医まで「医学部増員反対!」と参加へ、泥沼化の模様

カテゴリ:労働争議 コメント:(63)
医学部の教授まで「集団行動」の兆し…ソウル大学病院、病棟統廃合検討(聯合ニュース・朝鮮語)
政府の業務開始命令にも復帰しない専攻医に対する大規模免許停止などが差し迫った中で、医科大学教授の間でも「異常気流」が広がっている。
医大の教授たちは専攻医懲戒と医大増員に反発して共同声明を出し、剃髪式を断行した。 辞職の意思を明らかにした意思まで相次いでいる。 (中略)

剃髪式で教授たちは「先週行った教授会議で77%が医大増員申請を拒否するという意見を表明したが、これを全く反映しなかった」と抗議した。
江原大学は既存の医大定員49人の3倍に迫る140人に増員してほしいと教育部に要請した。

ソーシャルメディア(SNS)を通じて辞職の意思を明らかにしたり、実際に辞職届を提出した教授たちも相次いだ。 (中略)

ただし、彼らの辞職届は受理されなかったと伝えられた。

先立って延世大学と高麗大学医学部の教授たちも「弟子たちに対する不当な処罰が現実化すれば師匠として絶対に座視しないだろう」と警告した。 (中略)

現在、専攻医たちが去った空席は教授たちと専任医たちが埋めているが、教授たちが兼職を拒否すれば、その空白は手の施しようもなく大きくなる。

専任医の現場離れも加速している。
「専任医」は専攻医課程を終えて専門医資格を取得した後、病院で細部診療科目などを研究しながら患者を診療する医師をいう。
診療経験などが多いため、専攻医よりも重要な役割を病院で遂行する。

ところが「ビッグ5」と呼ばれるソウル市内の大型病院でさえ専任の離脱規模が大きくなっている。
(引用ここまで)


 韓国政府は2000人の医大・医学部の増員を成功させて、かつ7000人以上の専攻医(日本での研修医に相当)を免許停止3ヶ月へすることで終結するかと思われた医療スト。
 まだ専任医(専門医に相当)が待ち構えている。
 「俺たちの戦いはここからだ!」って状況に後戻り。

 専門医が辞表を出すことで、さらに混沌と化していく感じですかね。
 すでに大学病院を含めて病院が業務を縮小しています。

[単独]ソウル牙山病院、看護師など「無給休暇」の申請を受ける… 集団離脱の影響(ニュース1・朝鮮語)

 いわゆるレイオフを募集中。
 救急車で来ても数時間待ちなのだそうです。


 かつて「教師にだまされてソウル大学に合格させられた」として、「医学部を受験させろ」って言っていた高校生がいましたね。

医学部に進めなくなってしまうのであれば、ソウル大学合格も人生の邪魔!(楽韓Web過去エントリ)

 韓国ではソウル大学の○○学部よりもランクの低い大学の医学部のほうが上なんですよ。
 なんなら「すべての医学部の定員が埋まってから、ソウル大学の定員が埋まる」とされるレベル。歯学部、薬学部も優先されるかな。
 修能試験で満点と全国首席のふたりとも医学部志望。しかも、満点でもソウル大学の医学部には入れないので、延世大学の医学部に行くとしてましたね。

 そのくらいに「医者になる」ことは最難関を通り抜けて、ようやくたどり着ける職業なのです。
 そうした全能の人々が自分の地位を脅かされるとしてストライキをしている……というわけですが。
 まあ、さすがに通用しないわな。

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韓国の「医学部定員増」に反対した医療ストライキ、政府の大勝利で終わる模様

「本当にやるとは」…7000人の免許停止に専攻医の心境「複雑」(国民日報・朝鮮語)
政府が「専攻の復帰」デッドラインに定めた期限が過ぎるやいなや専攻医数千人に対する免許停止措置に突入した。 医療界は表面的には「免許停止をしても構わない」と毅然とした姿を維持しているが、内部的には検察の召喚調査に同行する弁護士を探すなど生存法を探している。

4日、チュ・スホ医協非常対策委言論広報委員長は「政府の行政処分などで専攻医が実際に不利益を受けることになる瞬間、その怒りは耐えられなくなるだろう」とし「すべての医師が政府と大きく戦わざるを得ない状況が生じかねない。 政府はこの辺で止めなければならない」と述べた。

医協側のこのような発言は、この日の保健福祉部の「強硬対応」方針に対する反応と見られる。

この日、パク・ミンス第2次官は定例ブリーフィングで「政府は現場を点検し、違反事項に対して法と原則に従って対応する」とし、「特に医療現場の混乱を招いた集団行動の核心関係者に対しては厳正かつ迅速に措置する」と明らかにした。

パク次官は「政府の業務開始命令に違反すれば少なくとも3ヶ月の免許停止処分が避けられない」として「3ヶ月免許停止処分を受ければ専攻医修練期間を充足できず専門医資格取得時期が1年以上遅れる。 また、行政処分履歴とその理由は記録されるので、今後各種就職に不利益を受ける可能性もある」と警告した。

パク次官は、医療現場を離脱した人々に対して善処のない免許停止処分が行われると予告した。 (中略)

それと共に「先月29日が処罰を免れるデッドラインだったが、今日から現場点検をするので、その前に復帰したとすれば処分にかなり考慮されるだろう」とし「今日の点検で不在が確認されれば明日すぐに事前通知をする予定」と説明した。

パク次官が言及した「業務開始命令違反」専攻医数は7854人に達する。 (中略)

過去の医師既得権を巡る紛争がある度に、政府と戦って勝利してきた経験が今回は通じないという危機感が頭をもたげる雰囲気だ。 (中略)

最近、集団行動のレベルでインターンを辞めたある医師は、「医師は代替不可能な職域であり、私たちがいない時間が長くなるほど医療界の混乱が大きくなるということを政府も知っているので、絶対に大々的な司法処理ができないという雰囲気が大きい」とし、「もし不利益を被ることになっても、何とか救済してくれるという信頼があったが、今の雰囲気を見れば、皆が救済を受けることはできないかもしれないと思う」と国民日報に話した。
(引用ここまで)


 医療ストライキがクライマックスを迎えつつあります。
 今回、医療ストライキに参加して辞表を提出した専攻医(日本での研修医相当)で、かつ韓国政府が設定した期限(昨日)までに復帰しなかったのが7854人。
 このすべてに韓国政府は「医師免許停止3ヶ月」の処分を行うだろうとアナウンスしました。

 医師協会側、韓国政府側のどちらも強硬姿勢を崩さないままでした。
 医師側は3日に4万人参加(団体発表。警察発表は1万2000人)のデモが行われました。

韓国、医学部定員増で反対集会 医師ら4万人参加(日経新聞)



 記事にもありますが、これまで医師側は「医療ストライキをすれば全戦全勝」でした。
 7000人以上の研修医に処罰はできないだろうと高をくくっていたっぽいですね。


 実際、これまで覚えているだけでも2回くらい医療ストがあったと思いますが、ほぼ医師協会側の勝利で終わっていました。
 記事中にあるようにムン・ジェイン政権時代にも同じように定員増員をやろうとして引っこめさせたことがありますね。

 ただし、今回の韓国政府は断固として「医大・医学部の定員増加をする」政策を引っこめませんでした。
 ムン政権ではできなかったことを、って部分もあるのかな。
 すでに大学側に来年の定員増を要請しているとのこと。

 で、「患者を放置した医者を許すわけにはいかない」として、辞表を出した上で現場から離脱した医師を3ヶ月の免許停止。
 ただし、「これから現場のチェックに入って、いなかったら免許停止」なので駆け込みで現場復帰する可能性もまだあるかな。

 今回、韓国政府がここまで強硬姿勢を崩さなかったのはちょっと意外でした。
 ユン政権だからこそできたって部分もあるのだろうなぁ……。

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韓国で1万人以上が辞表を出した「医療ストライキ」、韓国政府は「免許停止、免許取消もある」と衝突を覚悟した強硬姿勢に

専攻医7854人「復帰命令不履行」…中央災難安全対策本部、非常診療対策樹立(韓国経済新聞・朝鮮語)
「医業に乗り出して誓った真心を続けていけるよう、病院は皆さんを待っている」(パク·スンウ三星ソウル病院長)「医師として患者のそばを守り、今回の事態解決のために知恵を集めて一緒に努力しよう」(ハ·ジョンウォンセブランス病院長)「一人の医師の先輩としてお願いする。 どうか一日も早く患者のそばに戻ってきてほしい」(金ウギョン嘉泉大吉病院長)

政府が「最後通告の日」と釘を刺した29日、先輩医師たちの説得が続いたが、専攻医の大多数が患者を無視した。 全国100の総合病院と大学病院で辞表を出して去ったが、再び戻ってきた専攻医は同日午前基準で294人に過ぎなかった。 病院当たり3人の割合だ。 これらの医療機関所属の専攻医10人のうち7人は、患者の生命権を人質にした集団辞職を続けた。 政府の医療改革案を阻止するという目的からだ。 (中略)

福祉部は同日まで、専攻医らの復帰を待った後、業務開始命令違反の事実を確認する計画だ。 前日基準で業務開始命令を受けた医師は9438人だ。 命令不履行確認書を受け取った医師は7854人だ。 手続きに従って意見を聞いた後、処分が行われる。 パク次官は「専攻医たちがする説明が妥当でなく納得できなければ次の段階に処分が進行されるだろう」と話した。 3月1~3日が連休なので、この期間に帰ってくる専攻医も処罰猶予対象になる可能性が高い。
(引用ここまで)


 韓国政府が掲げた「医大、医学部の定員を3000人から5000人に約60%ほど増やす」との方針に対して、1万人以上の専攻医(日本でいう研修医)らが職場に辞表を出すなどして抗議していた医療ストライキの件。
 韓国政府は「29日までに復帰するのであれば罰則を加えることはない」と最後通牒をしていました。

韓国で「研修医1万人が辞表提出」している医療ストライキ、医学部の定員増がここまでの大騒動になる理由とは?(楽韓Web過去エントリ)

 んで、その29日を過ぎたのですが、現場に戻ったのは294人。
 今日も少し戻って累計で500人強が職場に復帰したそうですが。
 大半の専攻医は現場に復帰しなかった模様。


 韓国政府は強硬方針を取り下げることなく、医師協会の幹部を告発しています。

韓国政府、医師協幹部5人を初めて告発…協会側「病院復帰圧力は暴力」(中央日報)
医師協会を家宅捜索 研修医の職場離脱後初の強制捜査=韓国警察(聯合ニュース)

 「今回の医療ストを主導した」として告発。かつ、すでに警察は強制捜査で医師協会に踏みこみ済。
 もはや対話での解決とか一切ない感じですね。
 29日過ぎると1、2、3日は週末(1日は祝日)なのでここで復帰してもまあ、ペナルティはないのかな。

 んで、ペナルティは「医師免許取消」まであるとのこと。一度取り消すと身分の回復は難しくなるそうですわ。

免許取り消しになった医師らの「身分回復」は難しくなる…退路遮断(韓国経済新聞・朝鮮語)

 これまで「実質終身雇用」であったために、医療ストライキは効いていたのですが。
 今回の専攻医に対しては「3ヶ月免許停止」を行い、免許取消になったら再取得を難しくしようとしているとのことで。
 「医者の集団ストライキなど許さない」って方針を堅持する、ということですね。
 さらなる衝突は間違いなし、か。

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韓国で「研修医1万人が辞表提出」している医療ストライキ、医学部の定員増がここまでの大騒動になる理由とは?

カテゴリ:労働争議 コメント:(72)
「漢方医と薬剤師の業務範囲調整も検討」…医療界の波紋予想(JTBC・朝鮮語)
政府が医療界の利害関係が鋭く絡んでいる韓方医と薬剤師の業務範囲を拡大する案まで検討するという方針であることが把握されました。

医療空白が長くなり、医師らが敏感に反応する職域範囲の拡大まで言及しました。

大統領室の関係者はJTBCに「医療空白対応策として多様な選択肢を探す」とし「色々な職域間の業務範囲調整もそのひとつ」と伝えました。

過去、薬事法改正で医薬分業が施行された時も医療界は長期ストライキに入りました。

専攻医が現場を集団離脱し、開院医までゼネスト投票を予告した中で、政府も長期戦対策を検討するのではないかという解釈が出てきます。

ただ、大統領室は慎重にアプローチするとの立場も付け加えました。
(引用ここまで)


 韓方医、というのは韓国版の漢方医のこと。
 鍼(はり)、お灸、漢方薬などを駆使する医療とされています。
 国家資格ではありますが、医師からはちょい下に見られているのは間違いないところ。
 ただし、医師は針灸での治療はできませんし、漢方薬の処方はできません(ちなみに日本は特定の漢方薬の処方は可能)。
 韓方医は西洋薬の処方はできないことになっています。
 ちなみに両方の国家資格をとれば兼業可能。

 今回の医療ストライキに対抗する形で、その韓方医の業務範囲を拡大の方針が報じられました。
 おそらく薬剤師の役割拡大がいわれていることからも、西洋薬の処方についてでしょうね。

 こうした「医師以外の職業が医師の領域に踏みこんでくる」ことを韓国医師会はもっとも嫌うのですが。
 いまなにをしても状況は変わりそうにないので、カードとして出すって感じかもしれませんね。


 なお、韓国政府は「29日までに職場に復帰すれば責任は問わない」としていますが、医師側は大反発中。
 まあ……これ言われて反発しないわけがないですかね。

中対本「29日までに復帰すれば責任を問わない」…反発(KBS・朝鮮語)

 さて、1万人を超える専攻医(日本でいうところの研修医)が辞表を出しているのはなぜか、という話がコメントにも出ていますが。
 これは韓国人がよくいうところの「剥奪感」に通じるものがあるのです。
 「剥奪感」についてはプレジデントオンラインにも掲載されているシンシアリーさんのこちらの記事を参照してください。

 現在の専攻医はとんでもない倍率を潜り抜けて医者になったわけですね。青春のすべてをかなぐり捨てて得た地位なのですよ。
 その血と涙と汗で得た地位を、これからの高校生や(仮面)浪人生らは60%も楽に入ってしまう。

 こんな時、韓国人は「損をした」と感じるのですね。
 まだ医師になりたての専攻医であればなおのこと。
 結果、兵役に行かなければならないかもしれないほどのリスクを負ってまで医学部の定員増加に反対しているのです。

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 シンシアリーさんの既刊、いろいろとセール中で299円、399円になっています。

韓国の医療ストライキ、完全に世論から浮き上がってしまう……それでも政府も医師会も強硬姿勢を崩さずに「強対強の激突」のまま

カテゴリ:労働争議 コメント:(66)
「強対強対峙」に史上初の「深刻」警報…大きくなる医療空白(聯合ニュース・朝鮮語)
政府の医学部増員政策に反対した専攻医の集団辞職が続くと、政府が22日、保健医療危機としては史上初めて危機警報を最高段階である「深刻」まで引き上げた。

政府が主導者に対する拘束捜査原則など「厳正対応」を強調しているが、集団行動に出た専攻医の数は減っておらず、全体の3分の2水準を維持している。
多くの専攻医が去った医療現場は、主要大型病院が手術の30〜50%程度を減らすほど異常な姿だ。 手術と入院取り消し、診療延期などによる患者の不便と不満は大きくなっている。

政府はこの日から医院級の医療機関と再診、週末、医療脆弱地などで許可された非対面診療を専攻医の集団行動期間に「全面」許容し、長期戦に備えている。
政府はこの日午前8時を期して保健医療災難警報段階を既存の「警戒」から最上位の「深刻」に引き上げ、中央事故収拾本部(中央事故収拾本部)に続き中央災難安全対策本部(中央災難安全対策本部)を設置した。
新型コロナウイルス感染症のような感染症ではなく、保健医療危機のために災難警報が「深刻」に上がったのは今回が初めてだ。 (中略)

今回の措置で医療脆弱地ではないところや、「初診」でも平日に非対面診療を受けることができるようになる。 また、医院だけでなく「病院級」またはそれ以上の規模の総合病院でも非対面診療が可能になる。

政府が医師の集団行動に対する対応策として非対面診療を拡大することにしたのは、医療界が反対する政策を全面的に施行し、医師を「圧迫」するという意味を込めたものと見られる。 早くも事態の長期化に備える一方、集団行動をする医療界に退かないというメッセージを与えるという意図と読める。 (中略)

大型総合病院から専攻医が大挙離れ、医療空白はさらに悪化している。
ソウル市内の主要大学病院は、専攻医の空席に専任医と教授を配置し、入院患者の管理と緊急事態に備えている。 新規患者の予約をできるだけ制限し、手術30~50%を縮小して現在の人材で稼動した範囲内で病院を運営している。
(引用ここまで)


 韓国政府が医大、医学部の定員を2000人(60%強)増やすとの方針を打ち出し、医師会がそれに反対している状況。
 結果、大量の専攻医が離脱して(実質的な)ストライキを行っています。

 辞職届を出して離脱しているもの、あるいは辞職届を出しているもののまだ働いているものなど、いろいろなようですが。
 医療現場が圧倒的な人手不足に陥っている状況は1ミリも変化していません。

 韓国政府は強硬方針を崩さず、主導している者の医師免許停止も辞さないとの方向性。
 これまで過疎地などだけで認められていたリモート診療を一気に韓国全土で解禁。
 「一歩も退かない」意思を表明しています。


 医師会側もまったく動じていないまま変わらず。
 街頭デモをさらに行うと予告するなどしていますね。
 互いに強硬姿勢のまま妥協点がまるで見えていないことから、メディアからは「強対強対峙」とまでされています。

 んで、韓国人がこの状況をどう受け止めているかというと。
 「もういい加減にしてくれ」ってところです。

「クラスで成績20位の医師を国民は望まない」…発言で民意離れ招く韓国医協(ハンギョレ)

 「クラスで20位とか30位の成績を取っていた医者に診てもらいたいか?」って軽口を叩いて、「我々はエリートである」って思っている様子を見せてしまったもんだからもう大変。
 世論は完全に政府支持に向かってしまっています。
 なんなら政権支持率が上昇すらしています。

尹大統領の支持率34%に上昇 与党37%・最大野党35%=韓国(聯合ニュース)

 支持理由の2番目に「医学部定員拡大」が来ているほど。
 「民意」という面ではほぼ決着はついているのですが、医師会もメンツがあるのでどうなることやら。
 犠牲者は明白に患者なんですけどね。

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韓国政府「医学部定員を65%増しにする」→医師ら「患者を見捨ててでも阻止する!」→韓国国民「いや、それはやりすぎなんじゃ……」

カテゴリ:労働争議 コメント:(65)
街に出てきた医者たち…「政府を脅しても国民のための闘争は防げない」(イーデイリー・朝鮮語)
診療拒否に乗り出した専攻医をはじめとする医師たちが、政府の医学部増員と必須医療パッケージに反対して集会を開いた。 医療界のストが本格化して以来、2度目だ。

ソウル市医師会所属の医師300人余りは22日、ソウル龍山区(ヨンサング)の大統領室前で、政府の医学部入学定員拡大に反対する集会を行った。 彼らは「準備ができていない医学部定員の医学教育が毀損される」、「非科学的需要調査を直ちに廃棄せよ」と書かれたプラカードを振りながら政府に医学部増員撤回を要求した。 (中略)

一方、大韓医師協会の非常対策委員会は、来月10日に予定されていた全国医師総決起大会を1週間繰り上げて3日に行うことにした。
(引用ここまで)


 いま、韓国でもっとも賑わっているのがこの医師ストライキ。
 先日もちらっと書きましたが、その時点では専攻医ら6000人が辞表を出している、とされていましたが。
 今日の時点で9000人以上にまで膨れ上がったそうです。

辞表出した専攻医、1万人に肉迫。うち8000人がすでに病院を去った(電子新聞・朝鮮語)

 さらには医大生、医学部生の休学も3000人以上。
 病院への受け入れや手術もだいぶ滞っているそうです。

 彼らの主張は「医学部定員の2000人増加に反対!」とするもの。
 一部の医者は街頭デモを行っています。

スクリーンショット 2024-02-22 23.14.30.png

 掲げているプラカードは「準備のできていない医大増員は医学教育を損なう」かな。


 なんだかんだ言ってますが、要するに自分たちの医師としての立場を希釈するような政策に反対といって患者を投げ出しているわけですよ。
 多くのコメントは「患者を見捨てて自分たちのお金のためにデモをするようなヤツらからは医師免許を取り上げろ!」とするもの。
 実際、世論調査を見ても増員案については7〜8割が賛成しています。

大学医学部の入学定員増 有権者の7割超「肯定的」=韓国(聯合ニュース)

 来年から医学部、医大への入学者をこれまでの3000人ちょっとから5000人ほどにするとのことなので、かなりの増員であるのは間違いない。
 ただ、これまで医学部を諦めていた学生にはかなりの福音となるのではないでしょうか。

 ユン政権は一歩も退かず、辞職届を出している専攻医に対して出国禁止処分まで出しています。

「日本に行こうとしたら出国禁止」「違憲では?」 韓国研修医の書き込みが話題に(朝鮮日報)

 ま、これは兵役を済ませていない現役医には当然のように課される義務ではあるのですが。
 「辞職届を出しただけ」で受理されていない医師はまだ「現役医」であると判断されているわけですから。
 韓国は国民番号でプライベートをかなりのところまで監理できているので、こういったことも簡単にできるのですね。

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韓国野党「不法ストを合法化する『黄色い封筒法』案」を強行採決へ……可決されると韓国から工場撤退の嵐が起こる可能性も?

カテゴリ:労働争議 コメント:(52)
「黄色い封筒法」になぜ立ち向かうのか···「損害賠償爆弾防止」vs「不法スト助長」(聯合ニュース・朝鮮語)
国会本会議に上程される「黄色い封筒法」(労働組合および労働関係法改正案)は労使関係で使用者と争議行為の範囲を広げ、労働組合に対する損害賠償請求を制限することが核心内容だ。

労働界と野党は労組に対する無分別な損害賠償を防ぎ労働権を保障するための法だと主張するが、経営界と政府·与党は不法ストライキを助長し産業現場に混乱が引き起こされるとし反対する。

事実上、妥協の余地がないほど双方の立場が克明に交錯する状況であり、本会議を通過したとしても大統領が拒否権を行使することができる。この過程で労政、労使葛藤も激しくなるものと見られる。

野党が発議した黄色い封筒法は具体的に労組法第2条と第3条改正案だ。

2014年、裁判所が双龍車ストライキ労働者に対して47億ウォンの損害賠償判決を下すと、市民が寄付金を集めて黄色い封筒に入れて伝達したことから「黄色い封筒法」という名前が由来した。 (中略)

黄色い封筒法を巡る労使政と与野党の葛藤は克明に交錯する。

労働界は黄色い封筒法を「損害爆弾防止法」と呼び、過度で無分別な損害賠償訴訟で労組活動が萎縮することを防ぎ、下請け労働者の労働3権を保障するためのものだと主張する。

韓国労総と民主労総は黄色い封筒法が「利潤は独占し社会的責任を放棄する『本物の社長』の貪欲を制御するための最小限の制度的装置であり、無権利状態に放置された非正規職労働者の権利を保障するための至急な民生懸案」とし、早急な処理を促す。
(引用ここまで)


 今年の2月、および8月に話題になった黄色い封筒法が通常国会で再度審議されています。
 この黄色い封筒法、けっこうとんでもないものでして。
 いくつか注目されている項目があるのでピックアップしていきましょうか。

労組への損害賠償請求禁止
 これまでは「ストによって企業が被った損害賠償を労働組合に請求できる」ものが、原則禁止。
 双竜自動車の労組がストライキした際に47億ウォンの損害賠償が双竜自動車に認められたのですが、その賠償金を市民らが黄色い封筒に入れて渡すことで肩代わりしようとしたことがこの「黄色い封筒法」の由来になっています。

下請業者が元請けとの団体交渉を可能とする
 下請業者等の間接雇用者も下請企業ではなく、元請け企業に直接交渉ができるようになります。
 場合によっては100社を超える企業と団体交渉をする必要があるのではないかともされています。


 要するに韓国を(労働組合に所属している)労働者の天国にしようとする法案です。
 ユン政権は「不法ストには厳しく対応する」として、去年11月に起きた物流ストに対して厳しく取り締まりました。
 韓国では珍しいことにスト側の完全敗北となったのですね。

韓国の物流スト、前例のない「完敗」で終了……不況の中で国民の軽蔑のまなざしに耐えられなかった模様(楽韓Web過去エントリ)

 「不法ストには厳しく対応する」、とされたことで国民からは喝采を浴び、低迷していた支持率もちょっと上がりました。

 というわけで労働組合と近しい共に民主党はごり押しで「じゃあ、不法だったものを合法にしてやんよ」として提出されたのが「黄色い封筒法」なのです。
 これが通ればストし放題、団体交渉やりたい放題。
 ……これやったら収支が微妙な工場は韓国国外に脱出するでしょうね。
 大手の工場であれば安泰でしょうが。

 韓国最古の繊維企業とされる京紡や全紡はムン・ジェイン政権下で最低賃金が上昇した際に工場すべてをベトナムに移転させました。

韓国企業「最低賃金1万ウォン? もう韓国国内に工場維持は無理!」 → ベトナムに最新設備ごと大脱出!(楽韓Web過去エントリ)

 それと同じことが起きるでしょうね。
 ただまあ、成立しても大統領拒否権を行使して差し戻しになるとは思われますが。

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