韓国の医大生はどうか。3年前に与党「国民の力」のキム・ビョンウク議員室が入手した韓国奨学財団資料によると、2020年の全国の医学部の新入生のうち、所得1~8区間の該当者は19.4%だった。所得9・10区間が80%を超えているということだ。一方、米国のある研究によれば、米国の医大生の50%程度が所得上位20%だった。
裕福だからといって医師としての使命感に違いはないだろう。私教育をはじめとする投資がいくら多かったとしても、患者よりお金を優先する医師が多いとも思わない。
しかし、医学部増員が推進されるたびに極端に噴出する医師たちの反発が、金儲けとは無関係だと考える国民はほとんどいない。少なくとも、医師集団が今回、保険料非給付項目の抱き合わせを防ぐための混合診療の禁止をはじめとする必須医療パッケージの白紙化まで要求しなかったならば、一定の理解を得られたかもしれない。給与の安い専攻医の長時間労働ばかりに依存する病院、そのような犠牲を当然視する政府と社会、経済協力開発機構(OECD)平均の2.6倍である1人あたりの外来診療、必須科が忌避科になって美容・整形科だけが盛んになる構造が、本当の問題だと考えてはいるのか。そうであるとすれば、政府に物言いをするだけでなく、必須医療パッケージを支える財政計画と具体的な目標を約束するよう圧力をかけるのが常識だ。「2000人」を固守し強硬な態度を貫く政府の対応と、当面は医学部志望の偏りがもっと激しくなるであろうことへの懸念は強いが、既得権をただの一つも手放すまいとする医師集団の「素顔」を目の当たりにした世論は、簡単には医師たちの肩を持つようにはならないだろう。 (中略)
ソウル大学医学部のキム・ユン教授(医療管理学)は、医師たちの「収入」問題を赤裸々に指摘してきた唯一の医療界の人物だ。先月の文化放送(MBC)の番組「100分討論」では、医師の供給不足を説明し、2019年に2億ウォン(約2300万円)ほどだった総合病院勤務の年収が最近は3億~4億ウォン(約3400万~4600万円)に増えたと述べ、医師たちの反発を買った。討論直後に大韓医師協会(医協)は「教授、教え子がなぜ行動するかをご存知ですか」と題する新聞広告を出し、キム教授を事実上公開の場で攻撃した。昨年10月には、キム教授は先進国における様々な社会的・経済的なバックグランドを持つ医師を選抜する努力に言及したニュース1のコラムで「成績上位1%だけが実力のある医師になれるという主張は、(医師たちが自分の)収入を守るためのフェイクニュース」だと書き、医療界をざわつかせた。医協は懲戒方針を明らかにし、大韓開業医師協議会は、キム教授が参加するすべての会議に参加しないという声明を出した。 (中略)
最近、医学部増員に賛成したり専攻医の病院離脱に反対する医師たちの声が出始めてきたが、ほとんどが匿名だ。「裏切者」のレッテルを貼る医師たちの集団文化がそれだけ強固かつ暴力的であるためだろう。SNSのコメント欄などでキム教授に向けられる攻撃と非難は日常になった。「同期や先輩後輩とあからさまに戦うのは避けようとしてきた。遠まわしに言ったり、留保的な条項を付けたりしていた。だが、医師集団に所属しているという考えから抜け出そうと決心したので、本当に自由になった」
(引用ここまで)
ちょっと前に「労働争議であればなんでも擁護してきた左派紙ハンギョレすらも、現在の医療ストライキについては少なくとも支持していない」との話をしました。
これがどれだけの話かというのはなかなかに語りにくい。
ハンギョレの基本方針は暴力デモであってですら擁護。
「造反有理、革命無罪」を地で行くような論陣を張っているのがハンギョレであり、韓国の左派の基本方針なのですね。
そんな彼らですらも医療ストライキに対しては中立的な立場を表明してしまう。
政府方針に対してちょっとした文句を言うものの、それ以上のことは述べない。
なんだったら「専攻医(日本での研修医に相当)は辞表を出したなら、兵役にすぐにでも行け」くらいの記事を書いてしまう。
韓国左派紙すらも「医療ストライキ」に対して冷ややかな視線、「医者を辞職したならすぐにでも兵役に行け」とまでいわれてしまう(楽韓Web過去エントリ)
それくらい韓国全体からは医療ストライキは冷ややかな目で見られていると言えると思います。
んで、今回のハンギョレのコラムは「医療関係者は象牙の塔に引きこもっていないか」とするもの。
ソウル大学医学部教授が内部告発的に医療界の歪みを語っていることに対して、医療関係者は「あいつハブしようぜ」とか「この報告書を書いたのは誰だ!」ってやっているっていう。
昨日も書きましたが、韓国のエリートは90%以上が医学部に進みます。
ソウル大学医学部を頂点として、まず医学部・医大の定員が埋まり、そこからソウル大学○○学部が埋まっていくというイメージ。
スーパーエリートだけがいる、いわば「超象牙の塔」が形成されているのです。
そこに韓国のウリ(我々の意。ここでは強烈な仲間意識)文化が加わってえらいことになっている。
出身世帯も所得上位20%に属するところが8割超。
自分たちの既得権を侵害するようなものは排除されて当然、とのスーパーエリート意識に溢れているし、ウリ文化の中でそうした意識は敬意をもって対応されて当然との状況になっているのですね。
彼らは韓国社会において圧倒的強者、圧倒的「甲」なのです。
なので「患者を放置してストライキに入っても問題ない」って話になっている。
ハンギョレであってですら「それはちょっと……」ってなっているわけです。
なんなら支持率が低下していたユン・ソンニョル政権への支持が高まる状況にすらなっている始末。
世論は「大学定員を増やし、医療ストライキに立ち向かうユン政権」を支持しているのですね。
尹大統領の支持率39% 5ポイント上昇=与党39%・最大野党32%(聯合ニュース)
最後の最後まで世間との乖離に気がつくことなく終わるのでしょう。
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